Pixel C 5th Anniversary Review

2021-09-20PC 関連,論評

Pixel C は、2015年12月8日に Google 社から発売された Android タブレットです。製品設計からサポートまで全てを自社で行う体勢になってからリリースされた最初の Android 搭載端末で、同社が製造する最後の Android タブレットになるだろうと言われています。ここでは、発売 5 周年のこの機会に、もう一度 Pixel C とはどのようなタブレットであったのかを振り返りたいと思います。

Pixel C の全景。右下の傷は保護フィルムのものですのでお気になさらず。

Pixel というブランドについて

名前にある"Pixel"は、Google 社が展開する製品のブランド名です。他社の例ですと、SONY では"Xperia"、Sumsung では"Galaxy"がそれに相当します。それでは、"Pixel"という名前にはどのような意味があるのでしょうか。同社が過去に展開してしたブランド名である"Nexus"は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』に登場するアンドロイド「Nexus Six」が由来だとされています[1]。一方で、"Pixel"が意味するところは判明していません。ただし、"Apple"とは別に"iPhone"が 1 つの大きなブランド名となっているように、Web 検索のビッグブランドである"Google"とは別に、それすらも内包してしまうようなブランドとして"Pixel"を育てたいという趣旨の発言を、同社の SVP(Senior Vice President) である Rick Osterloh 氏がしています[2]。

“The reason the phone isn’t called Google is the brand doesn’t stretch that far,"

Why the Pixel phone isn’t called the Google Phone

“Pixel" の名前が最初に名付けられた製品は 2013 年に発売された Chromebook Pixel です。Web ベースで PC の基本的な作業を完結させるという意欲的な製品で、製品設計から自社で行うようになったのもこの製品からです。次の Pixel 製品も Chromebook Pixel であり、2015 年に更新されたもの。Pixel C はこれらに続く 3 番目の Pixel 製品です。

Pixel C は何を目指したのか

2-in-1 デバイスの発展

Pixel C の 'C’ は “Convertible" の頭文字を意味します[3]。分解すると convert(機能を変える) + able(できる) となるように、複数の機能を使い分けることができるという意味です。そして、一般にこの意味を持つ製品群は 2-in-1 デバイスと呼ばれています。

Pixel C は本体のほか、別売の専用キーボードを組み合わせて 2-in-1 デバイスとして使用します。

デバイスの小型・軽量化が進む中で、タブレットとしての機能も持たせたノート PC の登場により生まれた言葉が 2-in-1 で、特にその草分け的な役割を果たしたのが、 Microsoft 社の Surface シリーズです。タブレット型の本体と着脱できるキーボードという組み合わせ、そしてアーキテクチャには PC で主に使用される x86 ではなくスマフォ・タブレットで主に使用される Arm (Tegra 3) を採用ということもあり、ノートPCとタブレットの融合だと話題となりました。ちなみに、初代 Surface が発売された 2012 年には、2-in-1 ノート PC のもう 1 つのアプローチである Lenovo 社の Yoga シリーズが登場しています。こちらのシリーズでは、360 度曲がるヒンジを採用することでノート PC をタブレットとしても使えるようにしており、2020年現在もシリーズ展開されています(Yoga シリーズも Arm 搭載モデルを販売しています。)。

その一方で、タブレット側からノート PC に近づく嚆矢となったデバイスは ASUS 社 Eee Pad TF101 と言われています。登場はなんと 2011 年と Surface よりも早い。その後、Galaxy Tab S (2014年)Nexus 9 (2014年), iPad Pro (2015年) といった有名機種が発売されていき、その後に Pixel C (2015年)が発売される流れとなるのです。

Google が Pixel C で目指したもの

ここまでで挙げてきた製品群を見ると、Pixel C が開発された理由が見える気がします。それは、高性能 2-in-1 デバイスの自社開発 です。Google 社が当時発売していた Android タブレット端末である Nexus 9 は、純正キーボードを使うと 2-in-1 デバイスとして使用可能でしたが、ハードウェアは HTC 社製でした。一方で、自社開発を進めてきた Chromebook シリーズに話題の 2-in-1 デバイスはまだありませんでした。 Pixel C は、これらの間を埋める形で生まれた製品なのではないか。加えて、それは Android デバイスとして期待されていたものではなかったのではないか。

その根拠が、Pixel Slate の存在です。2018年、2-in-1 の Chromebook とも言えるこのデバイスを Google 社は Pixel C の後継機として発表しました。価格帯は $599~と Pixel C と同様に高級路線であり、Surface Pro 6 および iPad Pro (2018) を意識していたことは間違いないでしょう。しかし、Pixel Slate は Android も Arm も採用していません。 これらの点において、Pixel C の本質は Android や Arm であることではなく、Surface や iPad に対抗する 2-in-1 デバイスであることと言えるのではないでしょうか。

Pixel C に Android が採用された理由について

それではどうして、Pixel C には Chrome OS ではなく Android が採用されたのでしょうか。どうやら、当初は Chrome OS 搭載端末として発売する予定だったようです[4]。しかし、OS 側の開発が間に合わず、結局 Android を採用したそうです。Chrome OS が Android アプリに完全対応したのが Pixel C 発売後の 2016 年であることもそれを間接的に示しているのかもしれません[5]。

その経緯を物語るのが Pixel C の開発コード名で、"ryu" という名前がついています。Google 社の Android 端末の開発コード名は傾向があり、特に魚類の名前が採用されます。対して、 “ryu" はいかにも「龍」を想像できますが魚類ではありません。

ここで Chromebook Pixel に注目すると、初代 Chromebook Pixel の開発コード名が “Link"、2 代目が “Samus" であることがわかります。ピンッときますかね。これらの名前は、任天堂のゲームに登場するキャラクターを意図しています。 そして、Pixel C の “ryu" もまた、ドラゴンな龍ではなく、ストリートファイターのキャラクターである「隆(ryu)」を意図していることが想像されます。Pixel C はやはり、2-in-1 の Chromebook として開発されていたのでしょう。

余談: XDA などでは “ryu" ではなく “dragon" として扱われることがあります。龍(ryu) はそれだけ海外に知られている日本語ということなのでしょうかね。

スペックについて

Pixel C のスペック表を以下に示します。

項目Pixel C
SoCNVIDIA Tegra X1 Cortex A57 4 core (1.91GHz)
RAM3 GB LPDDR4-1600
Storage32/64 GB eMMC5.1
GPUCUDA Maxwell 256 core
Display10.2 inch IPS (2560×1800 px)
Camera8 MP(Rear), 2 MP(Front)
Battery9000 mAh
Wi-Fi802.11 a/b/g/n/ac(2×2)
Bluetooth4.1
USBUSB3.1 Gen. 1 (Type-C)
ChargeUSB PD (up to 24 W)

SoC

Tegra X1 は PC 用グラフィックボード、機械学習、自動運転、2020年は Arm 社を買収するとして話題になった NVIDIA 社のプロセッサです。Tegra シリーズは過去に数多くの Android 端末に採用例があり、Google 社の過去のタブレット端末である Nexus 7, Nexus 9 も Tegra です。しかし、Tegra X1 は TDP (Thermal Design Power) が大きいことからスマートフォンへの採用が出来ず、採用例が非常に少ないです (Android では Pixel C のみ)。それでいて、世界的に有名なゲーム機である Nintendo Switch に採用されている珍しい SoC です (Nintendo Switch 発売後早々に Android を Switch 上で動かす猛者が現れたのはこのため?)。CPU の性能は 正直言って低い 。後述しますが、GPU の性能と明らかに合っておらず、ベンチマークでは GPU のみ飛び抜けた値を示す愉快な結果が得られます。また、一時期スリープ解除後ししばらく CPU のクロックが上がらない問題も発生していました[6] (2020年現在は解決している模様)。

RAM

LPDDR4 (Low-Power DDR4) で 3 GB (1.5 GB x 2 channel) を搭載しています。LRDDR4 はシングルチャネルで 32 bit の帯域幅 (12.8 GB/s 相当)で、これをデュアルチャネルで動作させて 64 bit の帯域を実現しています。発売当時としては順当な採用で特に目立った点はありません。

Storage

32 GB モデルが $499, 64 GB モデルが $599 でした。むしろ 2 つのモデルの違いはこのストレージの容量しかありませんでした。SSD ではなく eMMC (embedded Multi Media Card) ですので転送速度は控えめですが、その他の eMMC 採用デバイスに遅れはとっていません[7]。Google Store では先行して 32 GB モデルの発売が終了しました。

GPU

NVIDIA 社のお家芸で、Tegra を採用する最大の利点です。ベンチマークを測れば一目瞭然。同世代のハイエンド SoC である Qualcomm 社 Snapdragon 820, 835 のスコアを超えて、2020 年現在でもミドルハイクラスの 5G 対応 SoC で知られる Snapdragon 765G 以上の性能を叩き出します (でも iPhone とか iPad には勝てません。)。3D ゲームはめっぽう強く、重量級で知られるゲームもプレイ可能です。ハードウェアデコードは 4K 60 fps の x265(HEVC), VP9 にも対応しており[8]、MX Player などハードウェアデコード対応アプリと組み合わせると、ほとんどの動画を消費電力少なく視聴可能です。

一方、CUDA は非対応 です。

Defeated の値は下から何%の位置にいるかという指標。明らかにGPUだけ上位にいます。

Display

筆者的に Pixel C の最も優れた点であると考えるのがディスプレイです。筆者は Nexus 10 が大好きでした。当時は 30 inch 級のディスプレイでないとお目にかかれない WQXGA (2560 x 1600 px)の高解像度を 10 inch の小さなディスプレイで実現していたのは衝撃的でした。しかし、発売がスマートフォンを購入したばかりの最悪のタイミングでしたので購入を諦めました。

Pixel C はこれを上回ります。10.2 inch で 2560 x 1800 px、Nexus 9 に失望の念を隠しきれなかった中 (8.9 inch 2048 x 1536 px で iPad にも負けてる!)、Nexus 10 の再来と喜びました。

一方、確かに 10 inch クラスで 300 ppi 超えのディスプレイは大変素晴らしいことなのですが、Pixel C のディスプレイの最大の特徴はその高い解像度ではなく、その 縦横比 です。√2:1、白銀比と呼ばれるこの比率は、A4, B5 といった紙の縦横比に一致するのです (厳密には Pixel C の方がやや長辺が長い)。

縦横比 16:9 のディスプレイの特長の 1 つとして、ハイビジョンの映像を視聴するときに黒い帯が出ないというものがありますが、Pixel C の場合は雑誌や参考書を読む際に黒い帯が出なくなります。

そしてかなり希少です。スマートフォンでは 18:9 のような比率が流行っているのに対して、Surface など一部のデバイスは 3:2、iPad は 4:3、液晶ディスプレイは 21:9 や 16:9, 16:10, 4:3 などで、√2:1 ではありません。読書専用で知られる Kindle デバイスですら違います。Pixel C は A4 を最も効率良く表示できるデバイス なのです。


これで大団円としたいところですが、実は最大の欠点もディスプレイにあると考えます。発売当初から不穏な WEB 上の書き込みがありましたが、Pixel C のディスプレイは非常に脆く、圧力に弱いのです。画面が半分映らない・砂嵐になるという不具合が多数報告され、Google 社の保証案件にもなりました。筆者の Pixel C もカバンに入れて持ち歩いていたら画面が全く映らなくなり、海外のショッピングサイトでディスプレイ部のみ取り寄せて自分で交換しました。1.8 万円くらいかかりました。それ以降、外出時にほとんど持ち出さない引きこもり端末になりました。

私見ですが、純正のキーボードの使用を前提に強度設計していたためではないかと思います。Pixel C は純正キーボードと重ねるとまるでノート PC のように画面部がキーボードで覆われます。このキーボードはアルミ製のため Surface や iPad の純正キーボードに比べて硬く、このディスプレイが覆われた状態は十分な強度がある一方で、本体のみの場合は急激に強度が低下するためではないかと想像しています。

キーボードで画面を覆った状態。まるでノートPCのような外見になります。

Camera

背面のメインカメラは 8 MP ありますので、画質としては最低限期待できます。試しに iPhone 5s と比較してみたものが以下の画像です。

なぜエマールなのか。そばにあったからです。

やはり画質としては解像感も iPhone 5s と疎遠ないものが撮影できています。手元にスマフォがない時は十分代用できそうです。問題は動作。iPhone 5s はさっと構えてさっと撮影できるのですが、Pixel C では構えてから画面の表示が安定するまでラグがあります。時間がある時はいいですが、とても撮影しようと思えるものではありませんでした。最低限の機能というのがしっくりくる表現だと思います。

Charge

Pixel C には、USB PD(Power Delivery) に対応した充電器が付属します。15 W(5 V 3 A) の給電が可能ですが、どうやら Pixel C は最大 24 W(12 V 2 A) の給電に対応しているそうです。

充電器。15 W 給電に対応。MacBookPro も充電できます。
PSEマークの記載もちゃんとありますね。電気用品安全法は満たしていそうです。

キーボードについて

Pixel C の Pixel C たる所以は、その専用キーボードの存在にあります。接続こそ Bluetooth ですが、充電は Pixel C を介してしか行うことが出来ず、事実上 Pixel C 専用のキーボードとなっています。専用キーボードには 2 種類あり、通常型とフォリオ型です。それぞれの基本的なレビューは他の方のレビュー記事にお任せし、ここでは、実際の使用感などをお伝えします。

筆者が購入したのは通常型のキーボードで、上部の磁石が埋め込まれた箇所で本体を固定する仕組みになったものです。

通常型のキーボード。お値段 $149 と高価。
本体をキーボードへ固定した状態。90度近くまで無段階で角度調節が可能。

10 inch サイズのキーボードということもあり、キーピッチはノート PC と疎遠ないのですが、Escape キーやバックスラッシュ(\)キーといった、なんだかんだでよく使うキーを使う際に特殊な操作が必要となる点に慣れが必要です。

3点ドットキーとbackspace でバックスラッシュキー(\)、3点ドットキーと1でEscapeキーを入力できます。

また、日本語入力は Gboard アプリを使用していれば Shift + Space キーで切り替えることができます。

このキーボード、最大の欠点は検索キーと思います。検索キー + Backspace で「戻る」、検索キー + b で「ブラウザ」、検索キー + e で「メール」など様々な機能を呼び出せますが、そもそもキーボードとの相性が悪い。Unix/Linux のようなキーボードで全て完結できるような OS なら使い勝手が良いのかもしれませんが、これらのショートカットで起動しても、結局キーボード入力する欄をフォーカスするには画面をタップする必要があることが多いです。Surface シリーズのようにタッチパッドがキーボード側へ付属していないため、それなら最初からタッチ操作でやったほうが早いという本末転倒ぶりです。そして左 Shift キーの上という修飾キーのベストポジションを占めていますので、ここにあるだけで使わないにしても効率を下げます。

それでも、1 度入力する体制に入ると便利なのは確かです。Android でプログラム書くとか、メールを返信したり記事を書いたりといった用途では一応使えます(ノートPCが無い環境では一応役に立つ場面もありそうですね)。

そしてもう1つ、電池持ちが悪い。Pixel Slate は本体と USB 接続扱いらしいので電池の心配がありませんが、Pixel C のキーボードは Pixel C を閉じた状態でないと充電できません。そのため、数時間の連続使用で簡単に電池切れしてしまい、充電中は本体も使用できなくなってしまいます。これなら USB 接続の外部キーボードを使ったほうが幾分かマシです。

進行中

現在、Pixel C キーボードの有線化を進行中です。USB-C 端子からなんとかして電源を取り出せるように検討段階ですが、これで利便性はかなり改善するものと思われます。


キーボードそのものの操作性は悪くないのですが、そもそも Android にキーボードが必要か?という問いで躓いてしまっている印象です。すでに Google 社のサポートも終了しており、Chrome OS が供給される可能性もありませんが、もし Chromebook として発売されていたなら、もう少し評価も違ったのかもしれません。

本体のディスプレイ交換について

* 実際の交換作業は 2016 年に行っており、当時の作業風景などは画像として残しておりませんでした。そのため、交換後の部品などの画像を使用してご紹介します。

動機

Pixel C を購入してウキウキで持ち歩いていたところ、ある時画面が電源ボタンを押しても点灯しなくなりました。Pixel C で有名なディスプレイの問題は以下のような半分だけ起こるものです。

原因は画面に加わった圧力です。筆者は持ち歩く際にカバンへ入れるのですが、どうも圧力がかかりやすい状態らしいです。事実、現在使用している MacBookPro も画面にかかる圧力が原因で一部だけ変色しています。当時はキーボードを購入しておらず、画面へより直接圧力が加わりやすい状態であったことも原因と思います。

購入 1 年以内だったのでアメリカの Google 社にチャットを挑んだのですが、結果は「保証対象だが日本へは送れない。」というもの。新品を買い直すお金もなく、画面だけ交換することにしました (今思えば転送業社を介せば保証で解決できたのではないかと思います。)。

交換手順

まずは、交換部品を探しました。発見したのは eBay の商品も購入できる海外ショッピングサイトのセカイモンでした。

届くのに1ヶ月くらいかかりました。

また、本体の分解のために iFixit のツールも購入しました。

本体は棒状。素材は保冷剤の加熱版といった感じ?

電子レンジで加熱して画面に被せ、接着剤を溶かして画面をひっぺがします。すると、以下のような画面が取れます。

前面。
背面。

画面を指で押すと、なぜがベコベコ音がします。やはり何かがおかしい。

これを購入したものと交換します。

静電気対策用の袋に入って到着しました。

到着したディスプレイは画面に円形の跡が。製品から吸盤系の工具で引き剥がしたのでしょう。

すでに接着剤は使い物になりませんため、3 mm 幅の細い両面テープで固定しました。(固定途中の画像を紛失してしまったようです。申し訳ございません。)

両面テープ。これで固定できるのだから驚き。

微妙に画面が浮き上がっているようにも見えますが、振っても外れず強力に固定できました。

微かにフレームからはみ出しているが、実用上は問題ありませんでした。

今後の対策

とにかく画面へかかる圧力を減らしたい。ということで、前に紹介したキーボードを購入しました。また、背面からの圧力も防ぐため、保護ケースも購入しました。以下の製品です。

このケースはこれだけで画面も保護する一般的なタブレット用の保護ケースと同じ構造をしており、そのままでは使用できません。そのため、ちょん切りました。

キーボードとの干渉を解消するため、ケースを切断しました。
キーボード使用時もケースを着用できるようになりました。
ちょっとブサイクですので、何かステッカーでも貼りますかね?

さらに、ノートPC 用のインナーケースも導入しました。

現在のところ、これでディスプレイ関連の問題は発生していません。ですが、対応に非常に手間がかかるため、基本的に持ち歩かないようになりました。iPad シリーズのように使えない点が非常に惜しいです。

技適について

日本国内で販売される無線機器は必ず電波法で定める技術基準に適合していることを示す「技適マーク」がついています。無線機器の開設には必ず無線局の許可を得る必要がありますが、「技適マーク」があることで、一部の無線機などを除いてこの許可の申請が免除されます[9]。そのため、普段使用する Wi-Fi や Bluetooth といった無線機能は、「技適マーク」のおかげで特別な申請なしに使用することが可能なのです。

ところが、日本国内で販売されなかった Pixel C には当然「技適マーク」はありません。そのため、無線機能を無線局の許可なく使用すれば 電波法違反となります

以下では、その対策方法を挙げます。

無線機能を使わない

無線機能を使ったら電波法に抵触するのであれば、無線機能を使わなければ良いという考え。Pixel C は Cellar モデルではないため、具体的に搭載されている無線機能は、Wi-Fi, Bluetooth, ワイヤレス充電(純正キーボード用)の 3 つです。結論から言うと、Bluetooth さえ使わなければ対策可能です。

Pixel C の純正キーボードは Bluetooth キーボードであるため、Bluetooth を使わないということは純正キーボードを使わないということです。すると、純正キーボード用のワイヤレス充電も自然と使用しないため、事実上 Wi-Fi を対策すれば良いとなります。

Pixel C の通信兼充電用端子である USB 端子には、有線 LAN が接続できます。

もちろん直接とはいかないので、以下のように、Type-C(Pixel C 本体) から Type-A(ハブ)、Type-A(ハブ)から RJ45 と変換して実現しました。使用したのは以下の製品です。

実際に繋げてみると、確かに Wi-Fi をオフにしていてもインターネットに接続できます。これで技適対策は一応可能です。

小物を繋いで有線LANに接続します。
Wi-Fi オフでも通信可能。電池マークのとなりが有線接続している印。

とはいえ、モバイル端末を常に有線接続が必要な環境で使用したり、2-in-1 ではなくただのタブレット端末として使用する意味がどれほどあるのかは疑問ですね。

セルフ免罪符を用意する

何をどう取り繕っても電波法違反は違反なのですが、法律の本来の意図や無線機能の要素分けにより言い訳を作るというものです。以下の Web サイトを参考にしました。

まずは法律の意図から。
電波法の第一条は以下のようにその目的を定めています。

『この法律は、電波の公平且つ能率的な利用を確保することによつて、公共の福祉を増進することを目的とする。』

電波法第一章第一条

平たくは、限られた電波資源を公平に効率良く、社会全体のために利用するための法律といったところでしょうか。

電波法で逮捕される事例として代表的なものは違法無線ではないでしょうか。遠方まで届く超強力な電波を発する機器を使用することは健康の問題もある一方、他の通信を妨害することにつながります。これが、電波資源を独占していることと見做されるのでしょう。

逆に捉えれば、技適違反であっても、他の通信を妨害しない機器であれば電波法の意図は満たしていることになるのではないでしょうか(苦しい解釈)。

そこで、もし Pixel C が日本で発売されることになった際に技適の認可を受けられたのかについて考察してみます。

頼りにしたのは、アメリカ版技適とも言える FCC (Federal Communications Commission) です。Pixel C はアメリカでは発売されていますので FCC の審査は当然ながら受けており、その ID も本体の箱などに記載されています。

本体の箱には 2 つの FCC ID が確認されました。

ここには 2 つの FCC ID が記載されており、HFS-RTLZ-CM2XXNF です。これらの ID を FCC のデータベースに入力すると、 より詳細な情報を得ることができます。前者の HFS-R は Pixel C 本体、後者の TLZ-CM2XXNF は内臓の無線モジュールの ID でした。

注目すべきは後者の TLZ-CM2XXNF です。当該ページより、無線モジュールの製造元が AzureWave Technologies, Inc. であることが分かります。そして、2015年9月29日付けになっている SAR Report より、Pixel C (C1502W) に搭載されている製品が AW-CM195NF であることもわかります。他の記事にも同様の記載がありました[10]。そして、この製品名で 総務省の電波利用ホームページ に照会します。すると、複数の項目がヒットし、AW-CM195NF が技適を得ていることがわかります。

AW-CM195NF は技適で認可されている。

使用周波数ごとに別個となっていますが、Wi-Fi(b/g) および Bluetooth が使う 2.4 GHz 帯(第2条第19号)と Wi-Fi(a/n/ac) が使う 5 GHz 帯(第2条第19号の3)の両方の項目がありました。

おさらいすると、Pixel C において Wi-Fi と Bluetooth を提供するモジュールである AW-CM195NF はそれ単体では技適を得ていました。ここから分かることは、それを搭載した Pixel C において、Wi-Fi と Bluetooth の使用から公共の電波を妨害するような、つまり、電波法が定める目的を害するような事態が発生する可能性は限りなく低いということです。

ちなみに、残ったワイヤレス充電(純正キーボード用)のモジュールは別で、こちらは技適にも一切該当がなく、言い逃れも何もありません。

ここまで聞くと、「じゃあ Wi-Fi と Bluetooth 使っていいんじゃん!」といきたいところですが、何度でも言います。

「違法は違法です。

法的にアウト、だが事実上黙認。この状態は「グレーゾーン」と呼ばれます。このゾーンを利用する際に気を付けることは「白黒付けようとしないこと。」です。法律は判断の基準となるべく作られていますので、その内容は白黒はっきりしています。白を得ようと法律に頼れば、たちまちグレーゾーンは全て黒となることでしょう。黒をグレーにしているのはあくまでも人の裁量であることにお気をつけください。

さいごに

Chrome OS は徐々に日本でも使用が拡大しているとのことで、その最も大きな要因は価格だといいます。Chrome OS は Web 上で完結するように作られており、性能面はそのクライアントとしての機能しか求められないからでしょうか。ならば、Chrome OS を採用予定または採用した高価格帯端末の Pixel C および Pixel Slate は何を目指していたのでしょうか。それは、Android との両立だと思います。2-in-1 デバイスとして Android で主流のタッチ操作と、PC に由来するキーボード・マウス操作を両立することが求められたのではないかと思います。

しかし、スマフォの影響が大きくなる中で、ソフトウェアは PC 用とモバイル用がそれぞれ別に最適化されるようになっています。異なる操作で同じ結果が得られるようになりつつある現状で、あえて異なる操作を両立させる必要が無くなったのではないかと想像します。

Google 謹製タブレットの終焉はタブレット端末全体の終焉と考えません。近年 Pixel シリーズとして Google 社が提供してきたタブレットがむしろ、ノート PC とタブレットの境界を曖昧にするものであったと思います。Google 謹製タブレットの終焉は、ノート PC とタブレットが異なるシステムの中にあり、現状では互いに代替され得ないものであることを示したと考えます。

Pixel C はタブレットがノート PC に対して持つ価値を示す、その一端を担ったと言えるのではないでしょうか。

お気に入りのチャームも付けて完成。

参考文献

[1] Is the Google Phone an Unauthorized Replicant? [リンク先]
[2] Why the Pixel phone isn’t called the Google Phone [リンク先]
[3] Hi, I’m Andrew, here at Google and I’m with the team that built the Pixel C…Ask Us Anything! [リンク先]
[4] The Pixel C was probably never supposed to run Android [リンク先]
[5] The Google Play store, coming to a Chromebook near you [リンク先]
[6] [KERNEL] -> tegra-3.18_unified_dragon_kernel_10_v201010 page. 40 [リンク先]
[7] The Pixel C Review [リンク先]
[8] Tegra X1 [リンク先]
[9] 総務省 電波利用ホームページ 技適マーク、無線機の購入・使用に関すること [リンク先]
[10] Electronics360 Teardown: Google Pixel C (C1502W) [リンク先]

PC 関連,論評

Posted by はるかみ